ラタン扉に、初めて挑戦したキッチン。

2019年に手がけた、住宅のキッチン。
「長く住んできてキッチンも古くなってきたんだけど、全部壊して新しくするのももったいない。扉だけ変えたりできないかな」
という、お客様からのご相談でした。
何十年と使われてきたキッチンでしたが、とても丁寧に使われていて、収納の中や引き出しもきれいな状態。もともとのつくりもしっかりしていて、設備も含め、まだ十分使えるものが残っていました。
全部をつくり直せば、かなり費用もかかります。
それなら、予算を抑えながら、今あるものをどう生かすか。
使えるところはそのまま残して、扉を変えることでキッチンの印象を変えてみよう。
そこから、このキッチンのリニューアルが始まりました。

ただ扉を変えるだけでは、面白くない。
扉を新しくすれば、それだけでも見た目は変わります。でも、せっかくやるなら、ただ新しい扉に交換するだけでは面白くない。
家の中を見てみると、ナチュラルな家具や素材が多く使われていました。
そこで、下の収納扉には無垢の木を。
そして上の吊戸棚は、もう少し軽やかにして、通気性もあった方がいい。
そんなことを考えて提案したのが、ラタン扉でした。
ラタンは編み目の間から空気が抜けるので、収納扉に使えば通気性がいい。木だけで扉をつくるより、見た目にも軽やかになります。
今では、他の家具屋さんでもラタンを扉に使った家具を見かけるようになりましたが、2019年当時はまだ今ほど多くありませんでした。
AMANEとしても、ラタンを家具の扉に使うのは、この仕事が初めて。
「これを使ったら、このキッチンに合うんじゃないか」そんなところから始まりました。

ラタンの吊戸棚には、取っ手をつけていません。
金属の取っ手をつける方法もありましたが、それでは少し重たく見えてしまう。
そこで、既存の吊戸棚の扉より縦を長く製作し、下側から手を掛けて開けられるようにしました。
正面から見たときには取っ手が見えず、ラタンと木だけがすっきり見えるように。 こういう細かなところも、実際の空間を見ながら考えていきました。
やったことがない。だから、調べるところから。
ラタンを使うと決めたものの、私も一緒につくる家具職人さんも、扉にラタンを張った経験がありませんでした。
まずは、どうやって張るのかを調べるところから。
ラタンを扱っているメーカーを探し、ラタンシートを仕入れました。編み方にもいろいろありますが、今回選んだのは縦と横のラインがまっすぐ見える、かなりシンプルなもの。
これが、やってみると難しい。
シンプルだからこそ、少しでもズレると目立つんです。

ラタンシートは水に濡らして柔らかくしてから、木のフレームに張っていきます。
フレームにつくった溝にラタンを入れ、その上から丸い籐芯を押し込んで固定する。キャンバスを張るようなイメージで、全体にしっかりテンションをかけます。
ただ引っ張ればいいわけではありません。
縦と横のラインを直角に保ちながら、ピンと張っていく。少しでもズレると、シンプルな編み目だからすぐに曲がっているのが分かってしまいます。
もちろん、最初からきれいに張れたわけではありません。
小さいもので何度も練習して、一度うまくいかなかったものもありました。
「これ、どうしたらきれいに張れるんだろう」
職人さんと一緒に試しながら、縦横をきちんと揃えて、均一にテンションをかける方法を覚えていきました。 手間はかかりましたが、こういう仕事がなければ、ラタンの張り方を覚える機会もなかったと思います。
ラタンだけじゃない。
今回手を入れたのは、ラタン扉だけではありません。
下の収納部には無垢材を使い、木扉にもひと手間かけています。
扉に使った木は、一枚の板から取ったもの。扉や引き出しを全部閉めたときに、木目が横につながって見えるようにつくりました。

一枚の木から、どの部分をどの扉に使うのかを考えながら加工していくので、ここも意外と大変なところです。
元の扉に記号を付け、新しくつくった木扉にも記号を付けて、位置を間違えないように慎重に。
そして、木扉には、水に強いステンレス素材の取っ手を。

上はラタンで軽やかに、木扉部分は無垢材の木目をしっかり見せる。同じキッチンの中で素材を変えることで、それぞれの良さを生かしています。
また、壁の一部にあったピンク色のタイルも、扉の新調に合わせて、このタイミングで白いタイルへ張り替えました。

一度やってみると、次にできることが増える。
この仕事のあとにも、ラタンを使った扉を何度かつくっています。
キッチンだけでなく、もともとついていた下駄箱の扉だけをラタンに変えたことも。
下駄箱なら、ラタンの通気性の良さも生かせます。
家具そのものを全部つくり直さなくても、扉を変えるだけで印象はかなり変わる。
そして一度ラタンの扱い方を覚えたことで、次に同じような相談があったときには、それも提案のひとつにできるようになりました。

木部はオイル仕上げ。ラタンも時間とともに色が変わっていく素材です。
このキッチンを手がけたのは、2019年。
7年経った今、どんな表情になっているのか、少し気になります。

